青葉玩具店「EXIT」
 仙台市で活躍する市民劇団「青葉玩具店」の演劇公演を観てきた。題は「EXIT」。作・演出・出演全て、アマチュアの劇団による自作の公演だった。
 時代劇の世界から物語りは始まる。主人公の多久(タク)は、ある城の殿様のお抱え絵師。同じ絵師の天(テン)とはライバル同士だ。絵師の世界は競争社会、出世のためには他人を蹴落とすのがあたりまえ。猛毒だが、最高の顔料といわれる「紅色カキツバタ」を盗もうとタクとテンは城に忍び込み、争った末に、誤って顔料を被り不死身の身体になる。それから数百年の後、時は2006年。漫画家となったタクは、ある約束を果たすため、トモミという女性の隣のアパートに住んでいる。そこに放浪画家となったライバルのテンが現れて・・・。
ほんのお隣、仙台市では、演劇がとても盛んだ。演劇といっても、商業演劇ではない。市民劇団が市内だけで40もあるというのだからうらやましい。交通費をかけ、高いチケット代を捻出しわざわざ東京へ出向かなくとも、毎月何かしら市民劇団の公演が行われている。劇団や公演をサポートするシステムが機能しているようで、仙台市と財団法人仙台市市民文化事業団とが「劇都仙台」と称し演劇振興事業を行っているのだ。劇都仙台HPの序文を引用してみよう。

『劇都仙台』は、仙台市と財団法人仙台市、市民文化事業団が行う演劇振興事業の総称です。演劇は、総合芸術といわれます。戯曲に始まり、演出、俳優、美術、衣装、照明、音響、制作、プロデューサー、舞台監督・・・、様々なクリエイターがその才能を発揮できるメディアです。そして、観劇する観客も演劇という一つの事件の発生に立ち会う主役の一人です。人と人を繋ぐ絆、才能を開花させる土壌。仙台劇都は、演劇と演劇に関わる全ての人々を応援します。

 青葉玩具店の公演「EXIT」は、素人演劇と呼ぶには完成度高いものだった。巧みな台本の構成と、役者の力量の高さ。何より自分たちの身の丈に合った、芝居作りがされている。劇団が多い分、いい意味での競争が作用しているのかもしれない。また、大きすぎず、高すぎず、劇場提供などの公の支援があるのだろう。
 何も演劇に限ったことではないけれど、『文化』に対しきちんとお金を使う都市は繁栄する。(と思う。)文化は人を育てるからだ。例えば、演劇などの表現活動は、人間の葛藤を映す。葛藤とは、自己と他者との差異化を認識すること。そして、私たちは、他人と違う自分を社会の中に位置づけていかなければ生きていけない。文化はそんな沢山の矛盾を昇華し、私たちに多様な選択肢を提示する。生きることは、自分を殺していく事ではない。自分らしくあり、また、互いに受け入れていくことだと。
 EXIT の最後で、タクやテンは、普通の人間であるトモミに不老長寿の秘密を知られるが、受け入れられ生きていく。異分子の共生。そこに希望が提示され、物語は終わる。
 多くの劇団が点在し、自主映画がつくられ、JAZZの音楽祭や、絵画の展覧会が週一必ずどこかでは行われている。大上段に構えたものではなく、それら文化的な事業が市民レベルで展開されていること。例えば今後、SOHOなどのように、仕事の形態が変化して、自分の生活圏を自由に選べる社会が来たとき、文化的な魅力があるということは大きな武器になるかもしれない。自治体としての力量とは、そういうことを問われるのだろうと、仙台の演劇事情を観て帰る道々、ふと考えた。